摂食障害はどうすれば回復するか?摂食障害の症状、治療、家族について臨床心理士・カウンセラーが解説
「摂食障害はどうすれば回復するの?」「摂食障害にカウンセリングは効果があるのか」「家族が過食症なんだけど、どう接すればいい?」当事者や家族は、とても大変な毎日を過ごしていると思います。少しでもお役に立てればと、現役の臨床心理士が摂食障害の症状や治療法、家族の関わり方についてまとめました。
摂食障害とは
摂食障害は、拒食、過食、過食に嘔吐や下剤乱用を伴うもの、などの種類に分類されます。いずれも重篤な場合は生命を脅かすとても危険な疾病です。低栄養のために、身体や脳に多大な影響を与え精神症状としても抑うつや不安の高さが見られます。
- 摂食障害
- 神経性無食欲症(いわゆる拒食症)
- 神経性過食症(いわゆる過食症)
- 過食性障害(いわゆるむちゃ食い)
- その他の食行動障害または摂食障害
他の精神疾患の併存も多くあり、そのことが治療の困難にしていることがあります。
摂食障害の種類と症状や特徴
大きく神経性無食欲症と神経性過食症に分類されます。いわゆる拒食症、過食症と言われるものです。拒食症は有意に低い体重、体重増加に対する強い恐怖が特徴です。過食症は体重増加を防ぐため、嘔吐や下剤乱用などの代償行為が特徴です。ちなみに拒食症も嘔吐や下剤乱用などの行為が伴うこともあります。他に代償行為のない、いわゆる、むちゃ食いなどが疾患として分類されます。また、最近は、このように拒食症、過食症に分類できないタイプも見られるようで、海外では、半数以上が分類できないタイプに属するという報告があります。
神経性無食欲症(いわゆる拒食症)
神経性無食欲症とは、いわゆる拒食症のことです。
拒食症の患者は、衝動的な行為や情動の不安定さを示すことも多く、身体的な異常だけではなく、その影響は心理面や行動面など多岐に渡ります。自傷行為や自殺企図、薬物やアルコールの乱用、家族への暴力などが見られることもあり、本人や家族に多大な影響をもたらします。
低体重により生命維持に危険がある場合は、入院治療において身体治療が必要になります。神経性無食欲症は致死率の最も高い精神疾患に数えられます。
神経性過食症(いわゆる過食症)
神経性過食症は、いわゆる過食症のことです。
過食症の人も衝動的で自傷や万引き、性的逸脱行為など、情動の不安定さがあります。食べるのがとても早く、味わうことなしに飲み込み、嘔吐しやすくするために大量の水を一緒に飲むなどの行為が見られれます。身体の電解質異常や他の臓器はのダメージの蓄積などもあり、体重が正常であってもこれらは過少評価できません。
過食は嗜癖行動と捉える理論もあり(この理論の批判もある)、人間関係などのストレスや情動の不安定さを調節するために行い、過食行動を止められなくなる悪循環となっている。極度に低い自尊心や対人不信、無力感、無能力感、社会性のなさを抱えている人もいる。そのことが過食をしてしまう根本の理由になっていることもある。と言う説もあります。
過食性障害(いわゆるむちゃ食い)
過食性障害の診断基準は、反復する過食がある。この過食に関しては、神経性過食症と同一です。違う点は、代償行為がないことと考えると分かりやすいでしょう。
その他の食行動障害または摂食障害
診断基準は満たさないが、食行動の異常が認められるケースがあります。例えば、体重減少はないが、その他の拒食症の診断基準を満たす、であったり、期間や回数の条件を満たさないが、過食や代償行為があったり、などがこれに当たります。
摂食障害の治療やケア
摂食障害は本質的には心理的な問題であるため心理療法やカウンセリングを受けて回復していく
治療法に関してですが、この治療法で全員が治るというような、見解が一致している理想的な治療法があるわけではありません。しかし、本質的には心理的な問題であるため心理療法やカウンセリングを受けて回復していくことが考えられる大きな選択肢です。
救急時の身体面のケアや内科的な処置は当然必要なこととして、ここでは、主に摂食障害自体の回復の方法に関して見ていくことにします。
拒食症、過食症で治療法や効果に違いがあります。
神経性無食欲症(拒食症)
拒食症は、重度だと入院治療が必要
拒食症は、重度の場合、入院治療が必要になります。生命を維持する栄養の確保が必須で、とにもかくにも生命に危険が及ばないまでに体重を増やしていくことが必要になります。そのためには、入院での栄養補給と食行動のコントロールを訓練していくことになります。しかし、疾病や行為について否認することも多く、治療に前向きに取り組んだり維持することそのものに困難さがあるので、治療の動機づけをいかに強固にしていくかが鍵です。
ボディイメージに対する認知の偏りなどもあり、対人関係療法、心理教育や家族療法などを並行して実施し、回復をはかっていくことも行われています。しかし、いずれも統計的に効果が証明されているわけではありません。実際に回復している方はいますので、セルフヘルプ、自助グループへの参加、段階によって認知行動療法の実施など、試すに値する方法は幾通りも存在すると思います。
神経性過食症(過食症)
過食症は外来での治療が多いることが多い
過食症の人は、過食することで心の安定を得ていることがあります。絶望感や不安感や焦燥感などのネガティブなこころの状態の解消のために過食行動をすることが多くあり、過食をすることで心のバランスをとっているという状態です。しかし、そのようなやり方では身体を壊してしまいます。より健康的なストレス対処の方法を構築していく必要があります。
過食症においては、認知行動療法や対人関係療法が統計的に効果があることが示されています。また抗うつ薬との併用は治療効果を増すが、治療を終了する患者が減るということが示唆されているようです。
治療法のまとめ
児童思春期における拒食症の家族療法、肥満を伴う過食症の認知行動療法と運動の併用、過食症、むちゃ食いの成人における認知行動療法的なセルフヘルプの方法が有望であると報告されています。
また、拒食症の低い治療意欲の解消するために、動機づけ強化療法というものが開発されています。
自分できる摂食障害の対処法
治療法や回復の方法はいくつかある中で、以下のことについて整理していくのはとても有効だと考えています。
・困っていることについてしっかりと自覚すること
摂食障害の心理療法やカウンセリングの効果
摂食障害の治療法の第一選択は心理療法・カウンセリングです。低体重は命に関わるため、必要に応じて内科的な処置は行わなければいけないですが、健全な食行動の治療には心理的な支援が必要となります。そこで、摂食障害に効果のある心理療法・カウンセリングについてご紹介していきます。
第一選択とはいえ、摂食障害(神経性無食欲症)に統計的に効果が証明されている治療法はないのが実情です。しかし、様々な試みの中で回復に向かうケースももちろんあります。
摂食障害の認知行動療法
認知行動療法は、考え方や捉え方などの認知面や行動を適応的なものに変化することで、問題を解決していく心理療法です。摂食障害の方の不適応な考え方やボディイメージを適応的なものに変容していきます。
また、飢餓状態や食行動の異常が多くの生理的、心理的な状態像を引き起こしていることを学ぶことはとても有益です。体重減少が一定のレベルで起きると、常に食べることを考えたり、食物に関する強迫観念を抱いたり、過食・嘔吐したり、重度の抑うつやイライラや怒りの爆発、自傷行為などが見られるようになります。これはまさに摂食障害の方に見られる特徴と一致します。つまり摂食障害で見られる多くの症状は飢餓状態や食を制限していることで引き起こされていると理解することができます。
以下に認知行動療法において行われるポイントを記載します。
自己理解
心理教育
症状そのものについて理解を深めていくことが治療のモチベーション維持にも必要です。
問題解決
維持と再発予防
状態を自覚するためのモニタリング、その時の対処法をあらかじめ考えておくなどが肝要です。
扱うテーマは、自動思考、不適応的な認知のスキーマ、気分のコントロール、対人関係、自尊心や自己肯定感、ボディイメージに関すること、など様々な領域に及びます。
摂食障害の対人関係療法
対人関係療法は、重要な他者との現在の関係に焦点をあてる心理療法です。悲哀(重要な他者との別れ)、役割期待のズレ、役割の変化、対人関係の欠如の4つの領域に分類し、いずれかにフォーカスして取り組んでいきます。いずれも現在の対人関係に焦点化します。
直接、食行動や症状に焦点をあてることはしませんが、認知行動療法と同等か長期で見た場合それ以上の治療効果があるとされています。
ストレスと症状を関連付け、そのときの対人関係上の出来事とその時の感情にフォーカスしていきます。
摂食障害の家族療法
家族療法は、様々な学派や方法がありますが、患者だけではなく、家族全体の 家族に対する心理教育や関わり方のトレーニングなども含めて有効な方法です。特に児童思春期においては、家族療法は有効な介入方法とされています。
家族療法の技法や流派も本当にたくさんあるのですが、拒食症に効果的なものがいくつかあります。
家族関係に焦点を当てる方法は、家族間の力関係やコミュニケーションのパターンなどを観察し、必要な介入を行っていきます。一方、食行動に焦点を当てて再養育するように家族に求める方法もあります。家族を資源として積極的に位置づけ、治療の主体として関わってもらいます。
家族の摂食障害への対応
摂食障害の家族ができる回復のためのサポートについてお伝えします。
摂食障害の家族の方のお話をお伺いしていると、今どうするか、これからどうしようかの情報が必要とされてる、と強く感じます。絶対的な治療法がないためとても混乱し困り果てているということも多く見られます。ここでは、家族ができる回復のサポートというテーマをお伝えしようと思います。
家族が受ける苦しさ
摂食障害は10代や20代という若い方に発症しやすい疾患です。親や家族は大切な子供がみるみるうちに痩せていく様や食べることに関する異常に気づいたときはとても大きなショックと苦しさ・悲しさを感じます。とっても受け入れがたいことに対して向き合っていかなければいけません。育て方が悪かったのか、何か病気のかかりやすさに関して遺伝してしまったのか、なぜもっと早く気づいてあげられなかったのか、と自分自身を責める考えも出てきます。
本人は疾患や食行動の異常を隠したいと考えていることが多く、実際に周りに分かるタイミングでは身体的な異常が出てきている場合もあり、親や家族はこころの準備もできないまま不意打ちされるような感じです。自分の大切な家族のまさに命を削るかのような行動や有り様を目の当たりにすると心穏やかにいることは本当に難しいでしょう。
また疾患が判明してからの治療段階においても苦しさはあります。短期間に治る病気ではなく、また本質的には精神的な疾患なので、曖昧さや不安定さや得体の知れなさなどを感じることもあると思います。その状態が場合によっては何年も続くわけです。
摂食障害の家族への関わり方のポイント
- 食行動の異常について指図したり批判したりしない。
- 出来たことにフォーカスする
- 興味を持って話を聴く
- 親の心配と子供の摂食障害を分けて考える
- 家族自身が摂食障害に関する知識を深める。
- 両親のそれぞれの関わり方に一貫性を持たせ、違うメッセージを与えない。つまり両親が疾患や関わり方についてよく話し合っておく。
- 治療をお医者さんや病院任せにしない。
親には親にしか出来ない役割があります。医師や学校の先生のように医療や教育的な関わりではなく、あたたかく受け入れる、存在を全肯定する、という、親がやるからこそ意味の大きいことがあります。安心できる環境があるというのは疾患の回復に有効です。しかし、本人の要求やわがままをそのまま受け入れるということではありません。ダメなことはダメ、出来ないことは出来ないということは伝えなくてはいけません。ただ食行動に関しての指摘や注意は医療者の役割で親は執拗にしない方がいいでしょう。しかし、拒食症の場合、十分にコミュニケーションがとれていて、信頼関係があり、そのことについて治療者との認識を合わせている場合、直接に摂食をすすめることも改善につながることがあります。
家族自身がケアされることの大切さ
家族自身が自分のケアをしっかりする、自分の人生を楽しむ、摂食障害の家族の影響を受けすぎないようにすることはとても大切なことだと思います。
楽しめる活動をする、ホッと一息つける時間を持つ、ストレスとうまく付き合っていく、自分なりのストレス対処法を持つ、睡眠や食生活など生活リズムや生活スタイルに気を遣う、など、やれることは山ほどあります。
家族の摂食障害の回復を望み、進めながらも、自分のケアのための時間もしっかりとっていくことが必要だと思います。
おわりに
いかがでしたでしょうか。摂食障害の種類や特徴、症状、そして治療やケアの方法についてまとめてみました。また、私は摂食障害の家族の関わり方もともて大切だと考えているので、そのことについても考えを書きました。当事者や家族の何かのお役に立てればと思います。摂食障害の当事者や家族が今よりも改善し、楽に充実した毎日を過ごせること祈っています。
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