統合失調症の症状・治療法を解説 家族の接し方やカウンセリングについても記載
統合失調症は100人に1人がかかるメジャーな病気ですが、周りからの理解が得られづらい現状があります。この記事では家族の接し方や治療法について解説します。当事者や家族が大変な思いと苦労をされている様を多く見てきました。少しでもお役に立てる情報になれば嬉しいです。
統合失調症とは
統合失調症は脳の病気です。症状は大きく陽性症状と陰性症状に分けられます。
統合失調症の数学者が主役の映画「ビューディフルマインド」が有名です。どんな病気かとても分かりやすく描かれており、理解が深まると思います。
統合失調症の症状
症状について紹介していきます。
・妄想、幻覚(幻聴が多い)
・まとまりのない発語(支離滅裂でよく脱線する)
陰性症状
・意欲が少ない
・感情の平板化(情動表出の減少)
診断には影響しませんが、疲れやすさを訴える人も多くいらっしゃいます。日常生活を送る上ではとても重要なことだと私は考えています。
統合失調症の予後
統合失調症は古くからある病気で、その予後の研究については、以下のような結果が報告されています。
- 【10年後の経過】
- 完全回復 25%
- かなり改善・比較的自立 25%
- ある程度改善するが支援ネットワークが必要 25%
- 入院、改善せず 15%
- 死亡 10%
当然ながら、あくまで統計的な数字であって、一人の患者の予後を予測するものではありません。
統合失調症の原因
育て方や環境要因説など様々な見方が過去ありましたが、最近では、脳科学の発展により、脳の気質的な問題の存在が明らかとなっています。その他にも統合失調症の病因として、遺伝説やストレス説、発達説など様々な学説が唱えられています。
現在すたれた説となっているのは、育て方が悪いために発症する、家族の相互作用が発症の原因であるとする、などの説です。科学性が欠如しており統計的に検証されていないとされています。
統合失調症の治療
統合失調症の治療は薬による治療が最も重要な治療法
統合失調症では、薬の服用で患者のおよそ70%が明らかに改善し、軽度の改善あるいは不変が25%、悪化は5%と報告されています。しかし、誰にどの薬が効くかは予測できるものではなく、試行錯誤しながら、自身にあった種類と容量を定めていくしかありません。
また、薬の服用で欠かせない視点が副作用についてです。様々な副作用がありその全てに注意が必要です。薬で得られるメリットと比較して、その使用を決定していくしかありません。また、薬の調整は、医師との信頼関係が何よりも重要だと感じます。
統合失調症のカウンセリング
これまで多くの患者さんのカウンセリングを担当させていたただきました。印象に残るのは、様々な理由で主治医に困っていることを話せない患者さんが多くいらっしゃったことです。そのことが治療を困難にしている一つの理由だと感じます。
薬以外の治療法としては、現段階では、支持的な心理療法・カウンセリングが有効といえるようです。
「今・ここ」に焦点を合わせて生活上の困ったことや、相談したいことを扱っていき、患者を励まし、支持と受容を提供する方法です。よりよい生活への希望をもたらすものと考えられます。
注意しないといけないのは、洞察志向的な精神療法や精神分析的な心理療法との区別です。統合失調症の治療法に関しては、洞察志向的な精神療法、精神分析的な心理療法は効果がないかもしくは病状が悪化してしまう結果になることが多いようです。
認知行動療法は最近、関心が高まっている心理療法です。日本でも保険適用が開始されています。統合失調症の治療においては、その効果はまだ議論されているようです。統合失調症は脳の病気であるということを思い返すと、この結果も納得ができるものです。
カウンセリングは、ある人にとっては確かに大きな価値と効果があることだと確信しています。しかし、思考や認知に大きな影響が出る統合失調症では、カウンセリングの効果が限定的であるということは理解ができます。
主治医に話せないこともカウンセラーになら話せるということがあります。主治医や医療機関の活用の仕方を話し合ったり、主治医との連携を考えてもカウンセリングを並行して実施することの価値はあると感じます。
統合失調症の家族にどう接するか
ここでは、家族がどう統合失調症と関わっていくのかという点について書いていきたいと思います。 内容は、スタンレー医学研究所のE・フラー・トーリー博士の著書、「統合失調症がよくわかる本」を参考にしています。
統合失調症について、あらゆる視点から書かれた良書です。 博士が論じているのは、以下の4点です。
バランス感覚
博士は、バランス感覚を失わずに、統合失調症という不条理な病気を受け入れられるか、が最も重要だと言います。バランス感覚とは、統合失調症にかかったという不運に悲しみに暮れるというだけではなく、統合失調症の人とともに笑いあえるということだと指摘しています。
病気の受容
受容することと諦めることは違います。受容とは、病気が消えてなくなることはない、統合失調症に罹患することで生活や能力に制限はかかるが、病気は現実のものなのだと認識することです。ほとんどの場合、患者や家族は、統合失調症になってしまったという不運に、怒りの気持ちをもっています。しかし、ありのままを受けいれるという態度が、家族や本人の状況を改善していきます。
家族のバランス
これは、統合失調症本人のニーズと他の家族のニーズのバランスをうまくとるということです。家族は、病気で苦しんでいる自分の子どもや兄弟に自分の犠牲をいとわずに、すべてを捧げてしまいがちです。患者本人のニーズだけが常に最優先されることのないように、冷静に合理的に評価することが大切だということです。
現実的な期待
統合失調症の発症前と後では、将来の対する見方や可能性は全く違ったものになります。将来の期待が大きければ大きいほど、障害の受容は難しいものになるでしょう。「もし、全快したときは・・・。」という仮定を考えてしまいがちです。しかし、最も大きな問題点は、患者本人が、それは仮定であると認識してしまう点です。そして、そのことで自分自身を追い込んでしまいます。患者への期待を少なくすること自体が家族全体の益になると思います。同時に、これは、統合失調症の人に何も期待しないということではありません。能力の限界を認め、現実を受け入れ、その人の能力にそったほどほどの現実的な期待は多いにされるべきだと思います。 統合失調症に限らず、その他の精神疾患で苦しんでいる家族や患者の方にも共通する考え方かもしれません。
以上のことを意識して、そのエッセンスや考え方を取り入れることができれば、前向きに生活を送れる可能性が高くなると思います。
記事の記載においては、
E・フラー・トーリー(著),南光進一郎,中井和代(訳) 統合失調症がよくわかる本 日本評論社
から多く参考にさせていただきました。
家族のケア
私がカウンセラーになった大きな理由が、家族支援をしたいという想いからです。特に精神障害は、身体や知的障害と違い、外からは分からないことが多く、地域から必要なサポートや援助が得づらいということがあるかもしれません。
家族の方が抱える問題は大きく、その負荷やストレスは大変なものです。まず、はっきりさせておかなければいけないこととして、統合失調症は、育て方や家族の相互の関係性が理由で発症するものではないということです。
統合失調症患者の家族は、様々な困難に遭遇します。特に、
「自分の育て方が悪かったのではないか」
「家庭環境が影響したのではないか」
など、原因を自分たちにあるとして、罪悪感を持ったり、家族間で非難しあったりするのは本当に悲しいです。
事実はそうではないと家族はまずはっきりと認識しなければいけないなと思います。そして、家族の方それぞれに自分の人生があり、統合失調症の家族が受ける制限はかなり大きいものです。
まだまだ社会の偏見や差別的な見方に耐えなければいけないこともあるかもしれません。そんな中で、家族の方にお伝えしたい点は、
「よく頑張って対処してきたね。よくやってきたね。」
と自分で自分にねぎらいの言葉をかけてもらいたい、ということです。
統合失調症の患者も大変だけど、家族も同様です。多くの方は、自分ができることを精一杯やってきていらっしゃると思います。症状が良くならない現実があったとしても、時に言葉を荒げてしまうことがあったとしても、です。
家族が統合失調症の患者のケアをすること以上に、自分自身のケアに時間とエネルギーを注いでもらいたいと考えています。このことは、見落とされがちですが、精神保健や精神医療を考えるときの重要な要素だと私は思います。
では、具体的に統合失調症の患者の家族が自分自身をケアするというのはどのようにすればよいのでしょうか。具体的などんなことが考えられるのでしょうか。そして、どのように統合失調症という病気と付き合っていけばいいのか、そのヒントとなる私なりの考えをご提示していきたいと思います。
最も大切なことは、一人で抱え込まないこと
最も大切だと思うことは、一人で抱え込まないこと、家族だけで抱え込まないこと、だと思います。まだ統合失調症という病気に対する偏見を感じる時も多いかもしれませんが、どんどん地域社会や外に出ていけばいいと感じます。
専門の精神保健の支援機関や行政のサービスなど相談できる場所はいくつかあります。統合失調症は精神疾患の中でも代表的な疾患です。対応に長けたスタッフもいることでしょう。使えるものはどんどん使っていくことです。
統合失調症という病気そのものは、焦ってもすぐ治るものではないかもしれませんが、家族の心持ちや態度や考え方は1回の相談などでも良いように変化する場合もあります。
また、自身のメンタルヘルスの維持のためにカウンセリングを受けるとういことも一つかもしれません。それは、一人で抱え込まないということにもつながります。
統合失調症の問題
・服薬の中断
カウンセリングをしていて、驚くほど多くの統合失調症の患者さんが服薬中断の過去や現在の状況をお話しされます。そして、ほとんどの場合、服薬の中断が悪い結果につながっています。なぜ中断するかという理由を知ること、そして、服薬を中断している割合がかなり高いことを知っておくことは必要なことだと感じます。理由は、病識の欠如、副作用、妄想性の思考、医師との信頼関係など様々考えられます。
・適切な医療を受けていない
統合失調症は病識を明確に持つことが困難な病気でもあります。また、現在では治せる病気であるにもかかわらず、病識がないために、適切な医療を受けていない方も多くいることも特筆すべきことです。統合失調症は生涯有病率が1%前後との調査結果がでています。決して、対岸の火事ではなく、ありふれた病気であるということ。そして、統合失調症の患者や家族の方は、かなり大きな負担を強いられるとういことを知っておかなければいけないと思います。社会的な課題であり、地域や行政や医療との連携の中で、患者や家族の方が生活しやすい社会を作りたいと感じます。統合失調症の症状なども記載してもよかったのですが、最もお伝えしたい点は、繰り返しになりますが、次の2点です。
- 統合失調症は治らない病気ではなく、寛解または改善の可能性がある
- 家族のケアが大切である
特に家族関係のカウンセリングをしていて、家族のケアが本当に必要だと感じています。
オープンダイアローグ
最近はオープンダイアローグ、つまり対話によって病が治癒するという実際の例が世界で報告されています。
急性期であっても薬や拘束などをせずに治癒する可能性があるということで大変注目されていると聞きます。
おわりに
いかがでしたでしょか。この記事が読まれることによって、統合失調症の診断を受けている方やそのご家族の方の何かしらのお役に立てれば嬉しいです。統合失調症の病因や症状、また治療の方法やその予後などは、詳しい本や文献を見ることで調べられます。この記事でも少し触れますが、それ以上に、私はあるメッセージをお伝えしたくこの記事を書きました。それは以下の二つです。
- 統合失調症は治らない病気ではなく、寛解または改善の可能性があること
- 家族のケアが大切であること
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